「一人ひとりの困りごとに、私たちは真摯に向き合えていただろうか」——。基幹システムの刷新を機に、それまで見えなかった組織の問題が一気に噴き出しました。 そのなかで、一般財団法人佐賀県産業医学協会の後藤理事長は人と組織のあり方に、向き合い続けてきました。「誰もが主体的に輝ける組織をつくりたい」。同協会は、そうした思いを掲げてきました。 お互いを尊重し合う「対話の文化」を育んできましたが、頑張る人が報われる「仕組み」が欠けていたのです。そこで「土壌」と「仕組み」の両輪を完成させるべく、新しい人事評価制度を構築しました。理念を体現する「魂を込めた箱」をどのように作ったのか。 その後の運用支援の内容について、後藤理事長にお話を伺いました。社名:一般財団法人佐賀県産業医学協会 (Webサイトはこちら)業種: 総合産業保健サービス(健康診断、作業環境測定、産業医、保健指導など)従業員数: 常勤50名超、非常勤含め全体で130名(2026年6月時点)都道府県: 佐賀県取材にご協力いただいた方: 一般財団法人 佐賀県産業医学協会 理事長 後藤 英之 様急激な組織拡大のなかで——。システム刷新をきっかけに噴出した現場の戸惑いー 会社概要について教えてください私たちは、佐賀県内の企業を対象に、働く人々の「健康診断」をはじめ、安全な職場づくりを支えるために職場の有害物質の検査を行ったり、専門医による「産業医活動」、そして保健師が健康づくりを促す「保健指導」などを行っています。企業の健康経営と、 働く人の安全を総合的にサポートする専門機関です。この地域の企業や働く人々を支え続ける一方で、実は私たち自身の組織も、ここ数年で大きな変化のなかにありました。かつては常勤職員が30名ほどで、お互いの顔がよく見えるアットホームな規模感だったのです。それが、拠点の移転などを機に採用を強化したことで、今では常勤50名超、非常勤を含めて全体で130名を超える組織へと急成長。ただ、この急激な規模の変化が、組織の中に少しずつズレを生んでいくことになりました。ー 組織が急激に大きくなるなかで、どのような変化が起きていたのでしょうか?一番大きな変化は、これまでの「言わなくても分かる関係性」が通用しなくなったことです。以前の規模であれば、細かな決めごとがなくても自然と業務が回っていました。しかし、人数が増えるとそうはいきません。明確なマネジメントの仕組みがないまま組織だけが大きくなったため、あちこちで不満の声が上がり始めたのです。ー 具体的には、どのような不満が現場で起きていたのですか?「それはこちらの仕事ではない」「そっちでやってほしい」といった、部門間での仕事の押し付け合いですね。本来なら、部門のトップ同士が直接話し合って業務を調整すべきでした。しかし、そのマネジメント機能が動いていなかったのです。そのため、現場のメンバー同士が手探りで調整せざるを得ず、さまざまな弊害が生じていました。上の人間はそうした現場の混乱を把握できておらず、すれ違いが生じる悪循環に陥っていました。ー そのような状態のなかで、2019年に大きなプロジェクトが重なったと伺いましたはい。長年の課題だった基幹システムを刷新しました。それまでの紙ベースでの運用をすべて電子化し、健診現場の端末から直接入力する仕組みへと一新したのです。将来のために必要なDX(デジタルトランスフォーメーション)だったのですが、これが引き金となりました。現場に新しい運用の負荷がかかり、スタッフ間でさまざまなぶつかり合いが生まれてしまったのです。ー システムの切り替え自体が、現場に大きなストレスを与えてしまったのですね紙から電子化へとシステムを移行するなかで、日々の業務負担が一時的に増えたり、慣れない端末操作に戸惑ったりする現場のスタッフがいました。そうした一人ひとりが抱えていた具体的な困りごとに、私たち経営陣が真摯に耳を傾けきれていなかったのだと思います。スタッフの不安や不満が限界に達し、中堅からベテラン層が、2〜3年の間にまとまって退職していきました。これには本当に強い危機感を覚えましたし、組織のあり方を根本から見つめ直す、大きなきっかけとなりました。対話の文化を育んだ先で気づいた、頑張る人が報われる「仕組み」の必要性ー そんな中で理事長に就任されてから、どのようなアクションを起こされたのですか?何よりも「関係性の修復」が必要だと考えました。お互いの長所や人生の目標を大切にし、誰もが前を向いて走れる職場にしようと発信したのです。そのための具体的な取り組みとして、課長級以上の管理職を対象に、相手の自律的な歩みを促す「動機づけ面接」の集中講座を導入しました。対話を通じて職員の本音や意欲を引き出し、信頼関係を築くためのスキルです。ー 組織のマネジメント手法そのものを、大きく変えようとされたのですねそうです。さらに、部下を主役に据えて支える「サーバントリーダーシップ」の外部研修もおこない、毎月の1on1ミーティングを開始しました。これまでの「管理型」のマネジメントから、スタッフを「支援する」マネジメントへの大転換です。時間はかかりましたが、徐々に部門間での前向きな話し合いが増えるなど、職場の空気は目に見えて改善していきました。ー そこからなぜ、改めて「人事評価制度」が必要だという結論に至ったのでしょうか?対話の土壌が育ってきたからこそ、次に必要だったのが明確な「仕組み」でした。お互いに支え合う関係性はできつつありましたが、職員からすれば「何をどう頑張ったら認められるのか」という明確な基準がなかったのです。理念やお互いを尊重する姿勢を打ち出すだけでは、具体的にどう頑張れば正当に評価されるのかが伝わらず、職員の定着や成長には繋がらないですし、何より組織全体で前を向いて事業を進めることが難しいと感じていました。ー 以前はどのような形で評価や給与の分配をされていたのですか?明確な評価基準がないまま、型通りの年功序列で一律に分配せざるを得ない状況が続いていました。というのも、実は15年ほど前に一度、5段階評価の人事制度を導入したことがあったのです。しかしそれは、全体の平均が「3」になるように、誰かを無理やり低評価に落とさなければならない仕組みでした。評価する側もされる側もつらいだけで、結局は全員に真ん中の評価をつけるようになり、制度は形骸化して廃止されてしまったのです。それ以降は、明確な基準がない状態で年功序列で分配するしかありませんでした。ー 過去の失敗がありつつも、やはり新しい仕組みが必要だとはい。年功序列の一律分配では、しっかり前を向いて頑張っている職員に、正当な報酬を渡すことができません。毎年最低賃金が上がり、支払える原資も限られているシビアな経営環境だからこそ、客観的な指標に基づいてみんなが納得できる分配の仕組みをつくりたい。そして、「前向きに頑張っている人に正当に報いたい。限られた原資だからこそ、全員が納得できる分配の基準をつくりたい」という思いが、評価制度への再挑戦を後押ししました。「私たちの課題を正確に理解してくれた」——。BottoKを選んだ理由ー さまざまな会社があるなかで、なぜBottoKを選ばれたのでしょうか?最初の出会いは、共通の知人からのご紹介でした。BottoKの代表である坂田さんが登壇されていたセミナーを私が聞きに行き、その内容が非常に面白かったため、一度私たちのところに来てお話を聞かせてほしいとお願いしたのです。その後のヒアリングで私たちの組織課題についてお話ししたのですが、わずか30〜40分ほどの時間だったにもかかわらず、BottoKは私たちの組織の考え方や、抱えている課題感を正しく理解してくれました。ー そこから制度設計の依頼へと繋がったのですね当初、私たちは人材育成のための「研修」をいくつか受講させたいと考えていました。ただ、BottoKと議論を進めている中で、「現在の状況であれば、研修を受講すること以上に、頑張りが正当に報われる仕組み(評価制度の構築)のほうが求めている解決に繋がります」と提案してくれたのです。自社の状況に寄り添い、何が本当に必要な解決策なのかを一緒に考えてくれる姿勢に触れ、他社とは比較せずBottoKに依頼することを決めました。自社の想いを言語化する。現場との丁寧な対話から築いた独自の基準ー 実際の支援プロセスは、どのように進んでいったのでしょうか?最初の1〜2ヶ月は、いきなり制度の細かい点数を設計するのではなく、私たちの経営方針や「どんな職員を育てたいか」という思いを言語化することに時間をかけました。自分たちの思いを改めて言葉にし、これまで明確に形にできていなかった自社の理念や求める人物像についての認識がより深まることになりました。この時間があったからこそ、その後の制度設計において、お互いの共通認識をすっきりと乗せることができたのだと感じています。ー 職種ごとの評価基準は、現場の皆さんとどのようにすり合わせをされたのですか?当協会には看護職、保健師、事務職など、さまざまな専門職が働いています。そこで、BottoKにそれぞれの職種に合わせた評価項目のラフを作成してもらい、それを現場部署に渡して「自分たちに合う形に書き換えてもらう」というラリーを繰り返しました。自分たちが意見を出し、納得いく形にブラッシュアップしていくプロセスを挟んだことで、「上から降ってきた制度」ではなく「自分たちで作った制度」という現場の納得感が生まれました。評価する管理職の側の抵抗感も、これによって解消された部分が大きいと感じています。ー 評価制度のリリース後の進捗や、実際の運用準備はいかがでしたか?嬉しいことに、プロジェクト全体のスケジュールが当初の予定よりも前倒しで進められました。そのおかげで、本運用に入る前に仮で評価を実施することができました。事前に一度仮で回してみたことで、評価する側の管理職への説明やすり合わせもしっかりとおこなうことができました。ー 実際の運用を始めるにあたって、実務的な部分でのご苦労はありましたか?当協会ではSmartHRを導入していたのですが、新たに作った評価項目をシステム上に実装・設定する作業は、自社だけで行おうとすると莫大な工数がかかります。そこで、BottoKがシステムへの実装・移行作業を代行する形で、システムの実務面の支援をしてくれて、非常に助かりました。評価制度という「魂を込めた箱」を、持続可能な発展のための両輪にー 先日、日本産業衛生学会でこちらの取り組みを発表されたと伺いましたはい。大阪で開催された学会で、対話の精神とサーバントリーダーシップをベースにした組織改革というテーマでポスター発表をおこないました。BottoKにも共同演者として入っていただき、私たちが構築した評価シートをQRコードで公開したのです。産業医や保健指導のプロが集まるなかで、非常に大きな反響をいただき、30名以上の方と名刺交換をさせていただきました。ー 外部からも、それだけ先進的な変革として評価されたのですね本当に嬉しい手応えでした。私たちは、この新しく完成した評価制度を、単なる査定ツールではなく「魂を込めた箱」だと考えています。この「仕組みという箱」と、これまでに私たちが培ってきた「対話を通じた人間関係」。この両方があって初めて、組織は持続的に前に進んでいける。まさに「車の両輪」だと考えています。ー 最後に、これからの協会が目指すビジョンについて教えてください私たちの存在意義は、「佐賀県の労働者の幸福を支えること」にあります。健康はそのための大切な要素の一つに過ぎません。働くすべての人々の幸福に、当協会の職員が「自分は貢献しているんだ」という自覚と誇りを持てる組織にしていきたいのです。そのためには、組織そのものが持続的に発展し、生き残っていかなければなりません。お天道様を見上げるような高い理想を持ちながらも、日々の売上やコストの管理といった、しっかりと地に足のついた活動を両立させていく。これからも、職員全員が同じ方向を向いて輝ける組織づくりを、BottoKと一緒に一歩一歩進めて行ければと考えております。※掲載内容は取材当時のものです。