早速ですが先日読んだ本で、Z世代の傾向を知る上で有益な本があったのでご紹介します。「先生、どうか皆の前でほめないで下さい―いい子症候群の若者たち」というタイトルの本で、大学教授という立場から過去と現在の学生動向を様々な視点で考察しており、個人的にZ世代の傾向をよく掴めた本でした。ここから先は少々ネタバレも含むので、本の中身が気になる方はここで記事を閉じてください。大学生の嫌いな講義=当てられる講義の傾向が強い著書の冒頭では、大学生が講義を受ける際の座席配置が変わってきたことが記されています。下記の図を見てください。左の図は過去の座席配置、右の図は現在の座席配置です。過去の座席配置は席間がポツポツと空いているのに対し、現在の座席配置は席間が詰まっていることが見て取れます。何故こんな座り方に変化したのか?1つの仮説として「集団への同化により自分の存在を薄めている」ことが挙げられています。下記の図は「大学で嫌いな講義」のランキングデータです。なんと嫌いな要素第一位として「当てられる」ことが挙げられています。「当てられる講義はインタラクティブで楽しい講義」と思って過ごしてきた自分とっては衝撃的なランキングデータで、Z世代は内容の善し悪しより「当てられる=自分が目立つ」ことを何よりも嫌うということであると。さらに、著書の中では以下のようにZ世代の傾向が記されていました。ただ、10年ほど前、講義の後のちょっとした流れで学生に怒られたことがある。それが本章のタイトルでもある「先生、どうか皆の前でほめないで下さい」だった。ほかにも、皆の前でほめた後、急に発言量が減った学生もいた。これはどういう心理なのか?自分で何度も検討を重ねた結果、人前でほめるくらいなら何も言わないでほしいと学生が願う背景には、2つの心理状態が関係していることがわかってきた。1つ目は、自分に自信がないこととのギャップだ。現在の大学生の多くは、自己肯定感が低く、いわゆる能力の面において基本的に自分はダメだと思っている。その心理状態のまま人前でほめられることは、ダメな自分に対する大きなプレッシャーにつながる。つまり、ほめられることはそのまま自分への「圧」となるのだ。この「ほめ」=「圧」という図式は、いい子症候群の大きな特徴なのでぜひ覚えておいてほしい。 2つ目は、ほめられた直後に、それを聞いた他人の中の自分像が変化したり、自分という存在の印象が強くなったりするのを、ものすごく怖がる。ほめられて嬉しいと感じる気持ちはもちろんあるが、そんなものはミジンコ級に感じるほど、目立つことに対する抵抗感は絶大だ。それでもなお、人前でほめられ続けるとどんな気持ちになるかと複数の学生に尋ねたところ、「ひたすら帰りたくなる」そうだ。 参考:先生、どうか皆の前でほめないで下さい―いい子症候群の若者たち要は、人前で褒められる行為はダメな自分に対する大きなプレッシャーと捉える褒められた後の他者が持つ自己への認識が変化することを極端に怖がるというZ世代特有の人前で褒められる行為に対する価値観があるということ。「目立ちたい」「人前で褒められたい」等、私が持っている価値観とは見事にズレています。「試行」や「自発」といったキーワードは苦手前述のような価値観が強いゆえに、Z世代は「試行=トライアンドエラーを行う力」や「自発=自ら考え、自ら動く力」といったキーワードについて苦手意識を持っています。「大切にしたいビジネスパーソンの行動や姿勢」として伝えている6つのスタンスについて、それぞれ得意と思うもの、得意ではないと思うもの、今後意識したいものを1つずつ選択してもらった結果、「試行」と「自発」が、あまり得意ではないものと、今後意識したいもののトップ2にランクインしています。企業側としても「試行」や「自発」は優先的に促したいZ世代の傾向を踏まえ、人事担当者も「試行」や「自発」というキーワードについては非常に敏感です。「リクルートマネジメントソリューションズ 2020年 新入社員意識調査」内では「新人の育成に関して強化が必要と感じるもの」の調査結果として以下のような結果が出ています。1位「成長意欲を持ち、必要な経験を自ら開拓する=自発」(70.0%)2位「目的を設定し確実に行動する(やり抜く、挑戦する)=試行」(56.4%)3位「働くことの意味・目的を考えて行動する=目的意識」(52.9%)ここまでをまとめると、企業側としては「試行」や「自発」はどんどん促したいZ世代側としても「試行」や「自発」は意識しなければいけないテーマと認識しているZ世代側としては「試行」や「自発」は今後意識をしていかなければいけないと認識しているものの、苦手意識が強く、アプローチの方法を間違うと大きなプレッシャーを感じてしまうという何とも言えない齟齬が生まれている状態と言えます。「試行」や「自発」の前に「自己肯定感」へのアプローチこの混沌とした状況下、Z世代へのアプローチ方法は如何にすべきか?結論はいきなり試行させる、自発性を促すという企業側の考えを一旦捨て去り、「Z世代に合う形で自己肯定感の底上げをサポートし、自発、試行、挑戦等のキーワードを促進できる環境を構築する」ことを意識すると、良い結果に繋がるケースが多いです。このアプローチを具体的にすると、以下2点になります。いきなり「やってみて」は禁止(経験前学習の整備を通じての試行ハードルを下げる)小まめな目標設定・PDCAサイクルを回す(自己肯定感の醸成)アプローチ① いきなり「やってみて」は禁止下記の図はデイヴィッド・コルブより提唱された「経験学習モデル」というものです。コルブの学習モデルは、その人自身の状況下での経験をすることが出発点になります。そして、その経験を振り返り、実践場面から切り離して他の状況でも応用できるかを考え、その考えを実際に試行してみるというサイクルを回すことで、経験が知識に変換されるというものです。この経験学習モデル、教育業界ではよく使われるフレームでありますが、Z世代の立場からすると「そもそも教えてもらっていないのに現場での実践なんて出来ない」という、いわゆる「経験前学習」の問題が発生しています。Z世代の受け入れで失敗している企業の現場担当者の特徴として、Z世代が現場に入るなりいきなり「まずはやってみて」と仕事を体感させることを強要してしまうことがあります。この「まずはやってみて」という仕事の進め方。Z世代からすると、今までの行動様式とはまるで違い「なんで最初にやり方を教えてくれないの?」と疑問で仕方ありません。それもそのはずでZ世代は「デジタルネイティブ世代」と言われる、育ってきた環境にデジタルがすぐ近くにある世代と言われています。デジタルがすぐ近くにあるが故に、何の行動を行うにしてもまずは調べ、調べた中で最適な行動選択を行う、”調べる(学ぶ)→やってみる”の行動様式となっています。一方、デジタルネイティブ世代より上の、育ってきた環境にデジタルが無かった世代は、今より「調べる」ことに関してハードルが高く、辞書を引くか、人に聞くか、現地に行くか等の行動を経て調べることを行う必要がありました。結果、調べることのハードルが高いが故に「実践してからそのものを良し悪しを判断する」という”やってみる→調べる(学ぶ)”の行動様式が通常でした。この2つの世代での行動様式のギャップが「まずはやってみてと伝えても全然動かない」「やってみる前に教えて欲しいのに全然教えてくれない」とそれぞれの世代の苦しみとなって反映されているのです。ではどうすれば良いのか。結論、企業側としては、Z世代の行動様式に合わせた、経験前の学びの場を提示する必要があります。下記は、他社でやっている経験前の学習方法の一覧です。 このように経験前に学習を行う場の設計を行うことは一つの有効手段だと言えます。このように、いきなり「やってみて」と伝える前にまずは事前のインプット機会を整える。1つ目のアプローチ方法です。アプローチ② 小まめな目標設定・PDCAサイクルを回す2つ目のアプローチ方法は「小さな目標設定・PDCAサイクルを回す」です。ここでは、Z世代の自己肯定感の底上げを行う上で有効な具体的な施策をご紹介いたします。行う内容、手順については以下の通りです。① OJT担当者が入社1年後のゴールを設定② 入社時に1年後のゴール設定を育成対象者、OJT担当者で擦り合わせ③ 1年後のゴールを達成するために、各月で実施することを分解し毎月末に育成対象者、OJT担当者で振り返りを実施上記、1つずつ詳細を説明していきます。① OJT担当者が入社1年後のゴールを設定まずは、OJT担当者が育成対象者に対して「入社1年後にどうなってもらいたいか」を言語化するところから始めます。この言語化を行う上でのポイントとしては、大ゴールの一言定義を設定し、一言定義に紐付く具体的な小ゴールを3つ設定します。② 入社時に1年後のゴール設定を育成対象者、OJT担当者で擦り合わせOJT担当者から、①で作成した入社1年後のゴールを育成対象者に伝達し、擦り合わせを行います。なお、擦り合わせを行う際のポイントとしては下記2つあります。1.育成対象者に伝える場合は「期待」という言葉を使う2.伝えた後、育成対象者からの素朴な質問を受け付け、心理的障害を取り除いてあげるなぜ上記2つが大事なのかについては、今回は解説を省略いたしますがとても大事なポイントの2つですので忘れずに実施してください。③ 1年後のゴールを達成するために、各月で実施することを分解し、 毎月末に育成対象者、OJT担当者で振り返りを実施入社1年後のゴールを擦り合わせた後は、分解した小ゴールを各月にて設定します。設定した後は毎月末に当月決めた小ゴールの達成状況を育成対象者、OJT担当者で振り返ります。達成していれば新たな小ゴールを翌月に設定、達成していなければ該当テーマを翌月に持ち越し、翌月は達成できるように育成対象者への意識醸成、行動サポートをOJT担当者が実施します。以上の流れによって、育成対象者のスキルアップ、自己肯定感の底上げのサポートを行います。まとめ今回はZ世代新卒の赤裸々な価値観、その価値観を受け入れ企業側が取るべき施策について解説させていただきました。「いきなり試行させる、自発性を促す」という企業側の考えを一旦捨て去り、「Z世代に合う形で自己肯定感の底上げをサポートし、自発、試行、挑戦等のキーワードを促進できる環境を構築する」ことを意識すると、良い結果に繋がるケースが多いです。是非参考に頂けますと幸いです。