少子高齢化による生産年齢人口の減少、キャリアに対する価値観の多様化や産業構造の変化など、労働環境の変化が大きい現代において、企業が取り組むべき課題はさまざまです。とりわけ従業員数が少ない中小企業では、社員一人ひとりが担う役割が大きく、人材は貴重な経営資産です。従業員のモチベーション向上、生産性・顧客満足度の向上、持続的な事業運営のためにも、時代に即した人材育成の取り組みは中小企業にとってカギとなります。この記事では人材育成の現状と課題を理解し、2024年に押さえておくべき『人材育成における重要キーワード4選』をご紹介します。1.中小企業における人材育成の現状と課題中小企業の人材育成は大手企業とは異なり、限られた資金と人材で対応する必要があります。人材育成の現状や課題が具体的にどのような傾向にあるか、みていきたいと思います。商工中金の『中小企業の人材育成の状況について』の調査において、『人材育成の施策別取り組み状況』(図1)の結果によると、調査対象の企業のうち9割以上の企業が何かしらの人材育成に取り組んでおり、そのうちOJTを含めた複数の人材育成の施策に取り組んでいる企業が7割以上であることがわかります。図1:人材育成の施策別取組状況(複数回答)【出典】商工中金「中小企業の人材育成の状況について」また、『人材育成の体制』(図2)としては「現場に任せている」「特に決めていない」の割合が全体の6割近くを占めている一方、「専門の部署がある」「専任者がいる」「外部機関に委託」の割合はわずかに1.6割ほど。計画的・組織的な人事育成体制の整備は十分とはいえない、と読みとれます。図2:人材育成の体制【出典】商工中金「中小企業の人材育成の状況について」さらにOJT、社内研修、金銭的支援などの人材育成が現場任せになっている傾向があり、人材育成に関して具体的施策のない企業の割合が半数以上を占める状況です。それでは、なぜ具体的施策を打つことが難しいのでしょうか。『人材育成を進める上での課題』(図3)については以下の調査結果が出ています。図3:人材育成を進める上での課題(複数回答)【出典】商工中金「中小企業の人材育成の状況について」「人材育成に時間をかける余裕がない」ほか、「体系だった育成プログラムの策定が難しい」「担当者を確保できない」といった課題が上位を占めています。通常の業務に加え、人材育成にまで手が回らない、余裕がない、という課題を抱えていることが分かります。働き方や雇用形態の多様化に伴い、企業における人材育成のあり方も大きく変化しています。効果的な人材育成を行うためには、方向性や戦略をしっかり立てるとともに、最新の人材育成についての動向も抑えることが欠かせません。本記事では、人材育成の策定にあたり、ぜひ押さえておきたい人材育成に関連するキーワードをピックアップし、各キーワードの概要や、注目を集めるようになった背景、課題や具体的方策などをご紹介します。2.人材育成キーワード4選(1)リスキリング 〜DX対応だけではない、学びのメリット〜そもそも、リスキリングとは経済産業省の公表した定義によると、「リスキリングとは新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で求められるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と述べられています。「学ぶ」というテーマでは、同じくらい耳にする「リカレント教育」があります。リカレント教育は自分が学びたいことを学ぶ、学び直しを指しています。一方、リスキリングは学び直しそのものが目的ではなく、職業につくこと、そして新しい、異なる業務を行うために必要なスキルを習得することが目的となります。また、企業や行政の主導により取り組む点でも、個人の関心が原点のリカレント教育とは異なった考えとなります。【リスキリングの特徴】目的は「新しい業務や職業に就くこと」実施責任者は企業(および行政)リスキリングは就業時間内に行う「業務」自主性に任せる学習とは異なるリスキリングは「新しいことを学び、新しいスキルを身につけること」だけでなく、「新しい業務や職業に就くこと」を含みます。つまり、学びが仕事に直結するイメージです。また、基本的に企業(または行政)が外部環境の変化に合わせて企業に変革をもたらすために実施していくのがリスキリングであるため、実施責任は個人ではなく企業や組織にあります。つまり、企業の新しい方向性に向けて必要となる能力開発であることから「仕事の一環」と捉えることができ、就業時間内に行う「業務」として捉えることとなります。なぜ今リスキリングが注目されているのか?リスキリングが注目されるようになった大きな理由の一つに、DXの促進が挙げられます。経済産業省作成の中堅・中小企業向け『デジタルガバナンス・コード 実践の手引き』の中で、DXを以下のように定義づけしています。データやデジタル技術を使って、顧客目線で新たな価値を創出していくこと また、そのためにビジネスモデルや企業文化等の変革に取り組むことあわせて、デジタル技術やツールを導入すること自体はDXではない、と明記しています。企業がDXを促進、実現するためには、知識やスキルの教育が従業員に対して必要です。中小企業が抱える課題の一つである採用難の状況下では、新たに人材を採用するよりも既存の社員にスキルを身につけてもらう方が、双方にメリットがあると考えられる点でも、リスキリングの取り組みは重要となってきます。注目されるようになったもう一つの理由として、「技術的失業」が挙げられます。テクノロジーの導入により機械化、自動化が加速し、人間の雇用が失われる社会的課題が深刻になってきています。分かりやすくいうと、日本人の仕事時間の多くを占めると言われるルーチンワークは、技術的にはAIで代替可能になると見られています。たとえば、一般事務、銀行員、警備員、スーパーやコンビニなど小売店員の職業がAIで代替できると言われています。必ずしもなくなる職業というわけではありませんが、ルーチンワーク業務の一部がAIに変わりつつあるのが現状です。そのため、多くの労働者が技術的失業によって仕事を失う前に、成長産業で必要となるスキルを新たに身につけるリスキリングを行う必要があるのです。リスキリングを促進する上で、取り組みたいこと「目標が明確であり、その達成のために新しい知識や技術を習得する」「学ぶことに対する抵抗感やハードルが低い」という人を除き、リスキリングへの動機付けやモチベーション維持をどのように行うかは、とても難しいポイントです。意欲のある従業員を選抜することが前提だとしても、対象者全員に十分なモチベーションを求めるのは、やはり困難なことだと考えます。人間は「Too good(自分にとってとても良いこと)、もしくはToo bad(自分にとってとても損なこと)が起きない限り、自分の環境を変えない」という自説を持っています。日本では学ぶことで、とても良いこと(例:昇進・昇格)も起きにくく、とても悪いこと(例:解雇)も起きにくのではないかと思います。後藤宗明「自分のスキルをアップデートし続けるリスキリング」,日本能率協会マネジメントセンター,2022年11月(p60)諸外国の労働者がなぜ自ら積極的に学ぶかというと、昇給・昇格に直接結びつき、自身のキャリアを大きく成長させることに直結していることが、顕在化されているからです。日本では従来の年功序列の制度が未だ続いている企業が多く、社会人になって以降、個人的に学ぶことで、too good やtoo badな状況が起こりにくい状況であることも、日本人の学ぶ意欲が低い傾向の要因とも考えられます。企業側としても、OJTによる実務での学びと、必要な知識は研修で十分に提供している、という自信があったためとも解釈できます。このような背景から、日本の企業では、就業時間内に学ぶ習慣や文化が根付いていないこともあり、結果的に従業員が帰宅後や週末に、またスキマ時間や睡眠時間を削って余裕のない環境でリスキリングに取り組むことになります。結果として、従業員に負担がかかることになりかねない状況をもたらすことも、考慮しなければなりません。他社の事例に見る、リスキリング支援 導入のポイント先述したように、リスキングに取り組むことのメリットを明示することは必要です。学ぶことで昇給、昇格、賞与に結びつく制度や仕組みを作り社員に明示することで、リスキングは活性化されると考えます。それと同時に、取り組まないことで起こりうるデメリットも認識させるような啓蒙活動も企業では必要となります。KADOKAWAは社員のリスキリング(学び直し)の支援を拡大する。資格取得の報奨金の上限を従来の100万円から1000万円以上に増額し、海外での経営学修士(MBA)の取得者に1000万円以上を支給する。日本のアニメやゲームは海外でも人気が高い。同社はグローバル人材を育成して、海外展開に弾みをつける。”KADOKAWA、海外MBA報奨金1000万円 リスキリング支援” 日本経済新聞 2024/5/29付朝刊 KADOKAWAでは、海外MBA(経営学修士)の取得者に1000万円以上、そのほか実用英語技能検定試験1級50万円、データベーススペシャリスト30万円など、対象資格数を139種、資格取得者には報奨金を支給するとしています。企業戦略とともに、達成することで得られる報酬などが可視化されていることは、取り組むモチベーションにも大きくつながります。とはいえ人員に余裕のある大手企業と異なり、限られた人数で業務を進めている中小企業では、リスキリングの取り組み方や進め方において多くの工夫が求められます。リスキリングで空いたポジションの欠員補充を行う際の助成金、また人材育成やスキルアップに関する助成金など、厚生労働省が実施している助成金の制度がHPで情報提供されています。その他各行政機関、自治体なども助成金制度を設けている場合があります。要件を満たす制度については最大限活用し、自社のリスキリングの活性化につなげてみてはいかがでしょうか。参考:【人材開発支援助成金】『人材開発支援助成金は、事業主等が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合等に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度です』出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」(2)1on 1 〜個々の成長とモチベーション促進〜1on 1 とは1on1ミーティング(1on1)は、上司と部下が1対1で行う面談であり、対話のことです。従来のような、上司から部下への指示や指摘、連絡事項を伝えたり評価したりすることが主な目的である面談や、部下の管理や評価を目的とした人事評価面談とは異なります。このような面談は部下にとってはストレスに感じることもあったり、頻度も四半期に1度、または1年に1〜2回程度なっています。【1on1の特徴】上司が部下の成長のために行うもの。”わざわざ定期的に”行う対話の時間とも日本ではYahooが取り入れたことで話題になり、現在は多くの企業で導入が進んでいる多くの企業が、1on1の取り組みを始めている理由多くの企業で1on1導入が進んだ背景として、さまざまな理由が考えられますが、その多くは従業員を取り巻く環境に問題があると考えられます。働き方、雇用形態の多様化転職市場の拡大により、退職や転職に対する環境変化部下を連れて飲みに行くといった機会、運動会や社員旅行の機会の減少先行きが不透明な現代において、将来のキャリア形成がイメージしづらい環境働き方改革などにより、部下を育成する時間の減少業務のIT化による対話コミュニケーション減少、コロナ禍で浸透したリモートワーク、忌憚のない、腹を割った関係が築きにくくなったハラスメントの問題、など、意識しないとコミュニケーションが取りづらい環境になっている背景が影響してきていると思います。では1on1にどのような効果があるのか、取り組む理由はどういうことか、という問いにはさまざまな答えがあるように思いますが、効果は?といえばコミュニケーションを通して得られるものであるといえます。キャリアビジョン:部下の考えていること、新たな一面、仕事への思いなどを知ることができるスキル開発:目標管理制度での評価の途中経過を知ることができる仕事への意欲(エンゲージメント向上):部下の成長・モチベーション向上このような効果により、上司と部下の信頼関係の構築・良好なコミュニケーションがとれる職場づくり、また、部下の悩みや抱えている不安に寄り添うことによる離職率の低減、また業務上の課題発見や解決なども期待されています。社員育成の観点上に示す「経験学習論」は人の成長のために必要なプロセスを図解したものです。部下は日々の業務の中で、あらゆる経験を蓄積していますが、果たして「振り返り」は定期的かつ精度高く行えているのでしょうか?定期的な1on1の場で部下が具体的経験をもとにその経験を振り返る、教訓を引き出し、次の仕事に活かしていく。そのサイクルを上司と共に何回も回転させることによって、部下に自分の体験を振り返る習慣が根付いていき、ゆくゆくは自分一人でも課題の発見と解決ができるようになることが期待できます。1on1導入時によくあるお悩みしかしながら、1on1の取り組みにおいては「話すことがない」「誰の何のためか、目的がわからない」といったデメリットの声により、1on1を導入しても形骸化してしまう、うまく運用できない、という企業が多いのも現状です。要因として挙げられるのが、目的が共有されていない業務の進捗が話題の中心になる上司が一方的に話す結論を急ぐ1on1では、「部下の話をただ聞く」「雑談をする」とは異なり、上司にも傾聴スキル、コーチングスキル、またフィードバックのスキルなどが必要になってきます。効果的な取り組みとするためにも、部下の話を聞く姿勢、共感の表現、否定しない返答などの知識やスキルを持って実施することが要求されるとなると、導入のきっかけや取り組みの定着にハードルが上がる要因ともなっています。また1on1が、具体的な業務の進捗報告や目標の確認に終始してしまう時間だったり、上司が部下にすぐに結論を出すよう促したり何かを急かす時間になってしまっては、部下の自発的な気づきや決断、判断を阻害する可能性が出てきます。あくまでも部下の成長を促す、サポートすることを意図する時間であることを十分に理解することが重要です。形骸化させない「上手な1on1」それでは、1on1の効果が最大限に発揮され、組織に定着されるためには、どのような対策が考えられるか、ポイントを挙げてみます。経営者や人事担当者と管理職が、1on1導入の目的、重要性を共有するマネジメント層に対して、1on1の研修を実施。学習機会を与える現場任せにすることなく、組織として定期的にモニタリングを実施人事部門が、項目やテンプレートを用意日々の振り返りは日報ベースで行いながら、実施回数を減らす1on1を外注することも選択肢に入れることで、マネジメント層、特にプレイングマネージャーの負荷を削減するまず、1on1という手段を通して達成したい目的・目標を共通認識化することが重要になります。「1on1で何をしたら良いのか?」を会社として標準化できることで、時間を割く必要性について現場のマネジメント層から理解を得られ、「言われたからやる」という受身的な取り組みになりづらくなります。1on1は部下の自主性の向上や成長を促すことを目的とした、定期的に実施される対話型の面談です。取り組みが意義のある時間となれば、上司と部下それぞれに充実感が得られ、部下の育成やモチベーションの向上にもつながります。また、良好なコミュニケーションにより信頼関係が構築され、組織における上司のマネジメントが順調に機能していくことなども期待されるとしています。全社的に制度を整え、社員一人ひとりに寄り添った人材育成につながる1on1の導入を検討してみてはいかがでしょうか。(3)マイクロラーニング 〜5~10分の効率重視の隙間学習〜マイクロラーニングとはマイクロラーニングとは、一つひとつのコンテンツが短時間で完結するプログラムによる学習方法です。時間の明確な定義はありませんが、多くは5〜10分程度、短い場合では1〜5分とも言われています。マイクロラーニングは、2017年に開催された人材開発組織主催の国際会議(ATD 2017International Conference&Expo)において、トニー・ビンガム氏が紹介したことで注目されるようになりました。【マイクロラーニングの特徴】PCやタブレット、スマートフォンなどのデバイスによる学習短時間で完結する学習コンテンツにより隙間時間を活用場所を問わず短時間で手軽に受講できるため、継続性の促進に繋がる学習コンテンツのボリュームが小さいため、制作、修正、内容をアップデートする負担が少ないこのように、マイクロラーニングは短い時間で場所を問わず取り組めること、学習形式が数分の動画視聴による学習やクイズ形式の勉強など多種多様であり自由度が高いこと、学習者の継続性に期待できることなどから、注目を集めるようになっています。マイクロラーニングは行動様式に合わせた学習方法リスキリングが企業や従業員に対し、業務上において必要なスキル・知識を新たに習得する取り組みであるのに対し、マイクロラーニングは個人が自己学習を行い、自身のスキルや知識を向上させる、個人主導の学習プロセスの自律的学習ともいえます。近年、新しいテクノロジーや競合企業の登場により、企業は迅速な適応力を求められています。企業は従業員に自律的学習を促すことで競争力を維持し、急速に変化する市場環境に対応できる態勢を整える必要があります。また、特に政府主導による『働き方改革』の取り組み以降、個人の能力向上、つまり個人の創意工夫や努力といった個人単位でのオペレーションに期待する傾向が強くなってきています。人材不足の環境において業務遂行力を上げ効率化するためにも、一人ひとりが自分の役割を考え、スキルや知識を最大限に伸ばし能動的に動ける人材を育成していくことは必要不可欠です。自立的学習の一つであるマイクロラーニングが広がってきている背景として、主に以下の2つが挙げられます。モバイルデバイスの普及に伴う生活様式と志向の変化コロナ禍によるテレワークの普及現在、多くの人がスマートフォンを所有するようになりました。スマートフォンがあればインターネットに容易に接続可能であり、移動や休憩の隙間時間にスマートフォンで取り組むことができるマイクロラーニングは、必然的に学習ハードルが低くなります。インターネットやデジタルデバイスの普及とともに成長してきた世代、生まれた時からインターネットが普及されていた「デジタルネイティブ」の世代にとっては、ITリテラシーを有していると言われており、マイクロラーニングとの相性が良いとされています。短い時間でどれだけの効果・満足度を得られるかという視点を重視する世代にとって、時代に即した学習方法として普及されてきました。また、コロナ禍でのテレワーク普及により、労働環境や働き方の多様化もマイクロラーニングの普及に大きく影響を与えています。働く時間や場所が一律ではなくなり、また研修や会議などにおいても一カ所に一同が集合する形式は取りづらくなってきたことは大きなポイントと言えます。マイクロラーニング導入後のよくあるお悩みマイクロラーニングは、短い時間で手軽に取り組める学習方法が特徴である一方、デメリットもあります。複雑な知識の習得、実践的学習には不向きモチベーションの維持教材を制作する手間やコスト丁寧で分かりやすい説明が必要とされる専門的な知識の習得、営業スキルやディスカッションが必要なものなどは、短時間で簡単な知識を習得することを特徴とするマイクロラーニングでは不向きな内容です。また、自宅や通勤途中などの隙間時間を使い、「やりたい時にやりたいだけやる」といった個人のモチベーションに依存している部分があります。自主性がなければ継続することが難しく、思ったような学習効果が得られない可能性もあります。さらに導入にはシステム準備が必要であり、準備した後もシステムの管理や更新など、随時更新が必要な工程が多いため、これらを自社で行うとなると、多くの手間とコストがかかります。すでに人員が不足している企業にとっては、システムの準備・運用にかける余裕がなく、外部に委託する方法もありますが、その場合はコストが発生するため、費用対効果やコスト比較が必要となります。マイクロラーニング活用のコツ 導入のポイント他の育成方法との組み合わせすべての学習をマイクロラーニングで実施するのではなく、学習内容にあわせて他の学習方法と併用することも大切です。時間が取れるときは従来型のeラーニングでじっくり学習し、忙しいときはマイクロラーニングで少量を復習する。また、集合研修やOJTの補完教材や予習・復習として活用するなどして、学習効果を高めていくことが必要です。また、1つのコンテンツが短時間で学習を終えるため、少ないコンテンツ数では学習範囲がまかないきれない可能性が高く、数を多く準備する必要がある上、コンテンツの作り方にも工夫が必要です。【マイクロラーニングのコンテンツ例】動画:数分の動画を閲覧し、学習できます。何回も繰り返し見ることで、学習効果が高まることが期待されます。従業員が業務上の処理やタスクを行う様子を撮影し、新入社員向けのデモ動画を作成したもの、PowerPointスライドのような画像とナレーションを組み合わせて、プレゼンテーション動画としたものを自社で作成しコンテンツとすることもできます。音声:通勤途中などに、「ながら学習」での活用が可能となります。インターネット上で配信されている音声や動画をダウンロードしたり、リアルタイムで視聴できるポッドキャスト・ウェブキャストなどを利用するなど、企業で学習教材を準備できない場合に有効な方法でもあります。クイズ形式:択一問題や〇×問題など、数分以内に終えられるクイズ形式で楽しみながら学習ができます。その場で回答を確認でき、間違えた問題には繰り返し挑戦できるため、知識の定着に効果が期待できます。ダウンロードコンテンツ (PDFなど):ダウンロード可能な電子書籍やPowerPointのプレゼンテーションなども、学習や企業研修などで利用されます。大きなメリットとしては、学習者が必要な時にいつでも参照できることです。マイクロラーニングプラットフォームの選定初期導入時のコストだけでなく、将来的に追加機能の必要性が生じた際の追加費用も考慮し、企業のニーズに合わせて柔軟に対応できるサービスを検討しましょう。また、コストに対して従業員のスキル向上や業務効率の改善といった形での効果がどれだけ見込めるかを評価することも重要です。その上で各社提供のサービスを比較検討したり、また仕事の手順について学習できる動画を制作するなど、学習内容によって自社でコンテンツを制作するなど、さまざまな可能性を検討していくことも重要です。自社で作る場合のおすすめ!learningBOX:https://learningbox.online/外部にお願いする場合のおすすめ!Workshool:https://www.work-school.com/(4)OJT 〜職場におけるアウトプット中心の実務研修〜OJTとはOJTとはOn-the-Job Trainingの略称であり、日常業務を通じて必要な知識・技術・技能・態度などを身に付けられるよう、指導することを指します。OJTは新入社員や若手を対象に実施されることが多く、1人の社員に対し1人の先輩社員が付く形が一般的です。【OJTの特徴】業務を通じて取り組むため、時間・コストともに効率的経験を通じて学ぶため、実践的な知識やスキルが身に付き成果が実感しやすい言語化やマニュアル化が難しい知識やノウハウ、暗黙知を伝えられる個別に行われるため、個性や社員の状況に応じた教育が可能などがあげられます。米国のリーダーシップ研究の調査機関ロミンガー社が、高い成果を残すリーダーに「どのようにリーダーシップ能力を身につけたか?」という調査を行ったところ70%/経験 20%/薫陶 10%/研修によるもの、ということが明らかにされています。人材育成の領域では「70:20:10」の法則とも言われ、社員の成長に影響を与えるものは「仕事上の経験」が70%であるとされています。OJTによる育成はこの仕事上の経験にあたり、学習と実践によるアウトプットを繰り返していくOJTが、企業における教育として重要な意味を持つことが分かります。意外と知らない「4段階職業指導法」OJTは、第一次世界大戦中にアメリカ軍員を大幅に増やし隊員を効率的に育成するために開発された「4段階職業指導法」が起源とされています。4段階職業指導法とは「Show」「Tell」「Do」「Check」の4つの段階があります。 Show:やって見せる Tell:教える Do:させてみる Check:評価、確認、指導する4段階職業指導法は第2次世界大戦にさらに発展した形となり、高度成長期に日本にも普及し定着しましたが、OJTはこの4段階を基本のステップとしています。高度成長期には人も時間もOJTに取り組む余裕があり、終身雇用や年功序列といった雇用形態が根付いていた中で、OJTは基本的な訓練法として定着していきました。現場に丸投げしがちなOJT冒頭に挙げた人材育成における課題の上位に占める「人材育成に時間をかける余裕がない」「体系だった育成プログラムの策定が難しい」「担当者を確保できない」といった課題を抱える企業が多い中、OJTの取り組みは、職場の上司・先輩と部下・後輩が具体的な仕事をするだけ、といった現場任せのOJTが多くなっている実態があります。また、「OJT担当者がなんとなく、感覚で教育している」「OJT担当者の経験と勘に頼って指導している」といった、「なんとなくのOJT」になってしまっている企業も少なくありません。「なんとなくのOJT」になってしまうと効果が上がらないだけでなく、場合によってはOJTが早期離職の原因になってしまう可能性もあります。OJTはあくまでも仕事に必要な知識・技能などを意図的・計画的・継続的に指導しなくては効果的とはいえません。OJTを成功に導く3つのポイント「OJT」を実施する現場はもちろん、会社として戦略的な「OJT」を進めるために、経営陣や人事側も意識しておくべき重要な3つのポイント、「意図的」「計画的」「継続的」についてまとめます。【OJTを成功させる進め方「3つのポイント」】意図的:OJTを実施する意図や目的をしっかり認識し、会社や人事、現場がOJTによって目指すべき姿、育成したい人物の未来像を明確にしておくことが重要です。指導者と対象者の双方に対しても、目的や目標、習得すべき知識・スキルを具体的に伝えておく必要があります。計画的:事前の計画やスケジュールに基づいて実施します。現場任せになりがちなOJTですが、計画立案には経営層や人事側も現場と共に参加することが望ましいです。OJT実施の際には指導者と対象者が目標に到達するまでのスケジュールを共有し、計画的な知識やスキル習得を目指していくことが重要です。継続的:一定の期間、継続的にOJTを実施します。終了後もOJTの延長線上にあると考え教育・育成を継続していくこと、また、上司や先輩社員が継続的に後輩を指導していけるような制度・環境を整備し、社内文化を醸成していくこともポイントとなります。人事主導で取り組みたいOJTの標準化次に、現場任せのOJTから脱却し、効果を高めることが期待できる具体的な方法をご紹介します。OJT担当者への教育OJT担当者は、業務内容についての知識と経験はあったとしても、人材育成に関してはプロでもなく、経験があるわけでもありません。多くの社員が「どのように人を育てたら良いか」「どうやって指導したら良いか」を学んだことがないはずです。まずはOJTを担当する社員に対して事前に教育をすることが大切です。OJT担当者によって指導のバラつきが生じないよう、担当者のために教育の専門プログラムを取り入れたり、育成力を高めるためのeラーニングの導入などを検討していくことも必要です。また、OJTは指導するトレーナー自身の力にもなること、自分にもメリットが大きいことを感じながら指導を進めることで、より質の高いOJT研修を目指すことができます。対象者へのフィードバックOJTを順調に進めるためには、フィードバックが大変重要です。OJT担当者は、フィードバックによって対象者がステップを踏みながら目標に近づいているかを確認してこそ、効率的に学習を進めていくことができます。また担当者自身も指導が適切であるかの判断もでき、対象者に合った指導方法か、育成内容かを振り返る機会となります。現場でのCheck(評価・追加指導)に加え、1日に一回、あるいは週に一回程度は、対象者へのフィードバックを行う時間を確保することが理想的です。フィードバックの場では、事前に設定した目標レベルやスケジュールと照らし合わせながら「できたこと」「できなかったこと」「できるようになるために何をするか」を確認し合います。具体的には、自社に合った育成計画シートやコミュニケーションシートの活用や、学習者の成果を偏りなく細やかに評価することで学習到達度を明確にすることができる、ルーブリック評価表などを活用することも有効です。目標設定、具体的なスキル習得、進捗管理、これらを可視化していくことでより効果的な成果を得られることが期待できます。シートを活用することで、自分自身の学習の進捗や課題、疑問点をOJT担当者に対して開かれた形で伝えられます。担当者も対象者の成長過程を理解しやすくなり、具体的かつ建設的なフィードバックが可能となり、こうしたコミュニケーションは、信頼関係の構築を促進し職場の雰囲気の改善にもつながります。組織全体での体制づくり自分の仕事に加えて指導育成もおこなうOJT担当者の業務負荷、精神的な負荷は決して小さくありません。担当者は通常業務を行いながら担当者の育成にあたります。企業は担当者にかかる負担を理解し、フォロー体制を万全にしておかなければなりません。たとえば、定期的な1on1ミーティングで担当者が抱える課題を共有したり、気軽に悩みを相談できる社内コミュニケーションツールを導入したりと、OJT担当者を全面的にサポートする環境づくりが求められます。OJTは新入社員や若手社員が実際の業務を通じて、業務遂行において必要なスキルや経験を身につけてもらうための教育訓練を指します。さまざまな業種で取り入れられており、人材育成にかかるコストもOFF-JTと比べて低いことから、取り組みやすい教育訓練だといえます。しかし、OJTで人材育成の成果をあげるためには、指導担当者役となる上司や先輩社員のスキルアップも欠かせません。業務内容そのものは熟知していても、新人に身につけてもらうための指導スキルは不足している場合があるからです。必要に応じてOJT担当者を対象とした研修を行い、教える側と教わる側の双方が共に成長できる体制を整えてみましょう。OJTを充実させることで即戦力となる人材を育てるだけでなく、現場での人間関係が構築されたり、組織全体の活性化にもつながるはずです。3.まとめいかがでしたでしょうか。中小企業の人材育成における現状と課題から、人材育成のキーワード4選の概要、課題や取り組む際のポイント、期待される効果などについて解説しました。自社の人材育成を振り返ってみたときに、「今年もこの時期はこの研修」「毎年同じようにやっているから」となっていませんか?企業や従業員を取り巻く環境は日々変化しています。従来の取り組みが効果を発揮する世代は、既に育成を行う立場になってきています。多様な価値観や仕事観を持った世代の社員を対象とした取り組みを行う際には、この記事で紹介した内容を踏まえ、変化の激しい時代にも対応できる効果的な人材育成を実施する必要があります。また、いずれか一つの育成方法を採用するのではなく、複数の方法を組み合わせて取り組むことが、より効果的な結果をもたらすことがあります。リスキリングやOJTを実施する際には、1on1を取り入れることで、部下の心理状態や課題意識を把握し、適切なフィードバックを提供することが可能となります。また、OJTの補完教材としてマイクロラーニングを併用して、よりスムーズなOJTを進めることも可能となります。なにより、企業の戦略や部門の目標を明確に設定することが、人材育成の効果を最大化するためには必要不可欠です。戦略や目標に基づきどのような人材が求められるのか、従業員にどのような能力を習得してもらいたいのかを明確にすることで、人材育成の目的と従業員自身の目標とのギャップを防ぐことができます。組織を動かすのも、企業風土や文化を作るのも「人」です。人材こそ企業の財産であり、人の成長が企業の成長、生産性や利益の向上につながります。人材育成は組織の最重要課題であると言えます。人材育成を何から始めたらいいかわからない。課題は理解しているがどうしたらいいのかわからない、人材が足りていない、時間がない、など自社で施策をたて実行することが難しい場合は、積極的に外部のリソースを利用することも検討してはいかがでしょうか。